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京都地方裁判所 昭和50年(行ウ)9号 判決 1979年2月09日

京都市下京区櫛笥通り花屋町上る裏片町一八四番地

原告

三双惣吉

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

吉田隆行

渡辺哲司

同市同区間ノ町五条下る

被告

下京税務署長 川戸哲

右指定代理人

大野敢

山中忠男

山田一雄

森野満夫

重野昭治

中西繁男

後藤洋次郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告が原告に対し昭和四八年三月一二日付でなした原告の昭和四四年分、同四五年分及び同四六年分の所得税に関する更正処分(ただし昭和四四年分及び同四六年分については異議決定により変更されたもの)のうち総所得金額につき別表(一)の(1)欄記載の各所得金額を超える部分並びに別表(一)記載の右各年分の各過少申告加算税(ただし昭和四四年分及び同四六年分については異議決定により変更されたもの)の賦課決定処分をそれぞれ取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所で人絹、ナイロン製等の風呂敷等の染色加工業を営んでいる。

2  原告は、昭和四四年から同四六年までの所得税に関しそれぞれ法定期限内に確定申告をなした。右各申告による所得金額及び納付すべき所得税額は別表(一)の(1)欄記載のとおりである。

被告は、右に対し昭和四八年三月一二日付で別表(一)の(2)欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をなし、これに対する原告の異議申立に対し同年八月八日付で昭和四五年分に関し異議申立を棄却し、同四四年分及び同四六年分に関し別表(一)の(3)欄記載のとおり異議決定をなした。

右異議決定に対する原告の審査請求については、昭和五〇年五月二日付で棄却の裁決があり、右裁決書謄本はその頃原告に送達された。

3  違法事由

(一) (違法な質問検査権の行使)

被告は、右各年分の原告の所得調査にあたり、調査の理由、必要性の具体的理由を開示しなかったのであり、このような違法な質問検査権の行使によりなした調査結果を前提とする本件更正処分は違法であり取消されるべきである。

(二) (処分理由の不附記)

本件更正処分については、その更正通知書に処分の理由が全く附記されておらず、違法であるから取消されるべきである。

(三) (所得の過大認定)

本件更正処分は、原告の各年分の所得を過大に認定しており、前記原告の申告所得金額を超過する所得金額認定部分は取消されるべきである。

(四) (過少申告加算税について)

右のように違法な更正処分を前提とした前記各過少申告加算税の賦課決定処分も違法であり取消されるべきである。

二  請求原因に対する答弁及び被告の主張

1  請求原因一、二項は認めるが、同三項は更正通知書に理由を附記しなかったことは認め、その余は争う。

2  本件各係争年度の原告の所得調査に関し、被告の部下職員が昭和四七年九月一一日に原告肩書住所地に行って原告に対し所得調査の旨を告げたが、原告は税金のことは息子の惣四郎にまかせてある等といって協力せず、右職員が京都市南区上鳥羽戒光院四六番地の二の惣四郎方へ行っても同人は調査に協力せず、その後同年一二月一五日までに数回にわたり職員が原告方ないし惣四郎方に行って面接したが、原告や惣四郎は所得計算に必要な帳簿等は一切提示しなかった。

そのため、被告としてはやむなく推計によって原告の所得額を認定せざるをえなかったものである。

3  原告の係争年度の所得金額は別表(二)のとおりであり、右所得金額の範囲内の本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分には何らの違法もない。

4  別表(二)の各科目の計算根拠は左のとおりである。

(一) 収入金額

昭和四四年及び同四六年の収入金額は別表(三)の(1)の各取引先からの収入金額の合計である。

昭和四五年については、同四四年と同四六年の各原材料費率(収入金額(別表(三)の(1))に対する原材料費(染料仕入金額(別表(三)の(2)))の割合)の平均値二〇・〇九%を同四五年の染料仕入金額二、八三一、三五二円(別表(三)の(2))に適用して算定した一四、〇九三、三四〇円である。

(二) 原価、一般経費

原告と同種の無地染染色事業を営む下京税務署管内の個人で各係争年分の所得税の確定申告にあたって青色申告決算書を提示した者(昭和四四、四五年分につき各三〇人、同四六年分につき三一人)の平均所得率(収入金額から原価(雇人費、外注費を除いたもの)及び一般経費を控除した後の金額の収入金額に対する割合)を求め、これを前記の各年の収入金額に適用して算定した額である。

右平均的所得率(小数点三位以下切捨て)は、四四年が六一・九二%、四五年が六四・四八%、四六年が六四・三四%である。

(三) 雇人費、外注費の内訳は別表(四)のとおりであり、いずれも本件審査請求の際に原告が主張していた額である。

(四) 建物滅価償却費は、右審査請求の際に原告が主張した事実に基づいて、各年について別表(五)のとおり算定したものである。

(五) 支払利子、割引料は、原告が取引金融機関に支払ったもので、その各年分の金額は別表(二)の7記載のとおりである。

5(一)  原告のような染色加工業者の所得を推計する場合には、収入金額に最も直接的で比例関係のある染料の仕入金額(原材料費)を基準とするのが合理的であり、特に本件にあっては昭和四五年分の総収入金額算定の基礎とした収入金額、仕入金額の各数値が原告自身の取引実績であり、また、各年分の仕入金額は毎年漸増していて事業活動における特別な変動が認められないため、右所得計算の対象となる昭和四五年分の直前年と直後年の平均値を適用していること等に照らしても、被告の推計には合理性がある。

(二)  原告の各年分の原価、一般経費は、同業者の平均所得率を適用して推計したが、右同業者は前記4の(二)掲記の選定基準によっており、被告の恣意は介在せず、事業形態を異にする法人企業が除かれ、同一地域内で営業しているものであることなどの点からみても、右推計方法は合理的である。

三  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告主張二項目については、被告の部下職員による調査のあったことは認めるも、原告としては右職員から帳簿等の提示を求められなかったので、これらの書類等を提示しなかったまでである。

2  同四項は、原告が同項(一)記載の各取引先と取引をしていたこと、雇人費、外注費について、本件の審査請求の段階で原告が被告のいう額を主張していたことは、いずれも認めるが、その余は争う。

3(一)  被告は、収入金額につき、昭和四四年分及び同四六年分については、実額に基づいて主張しながら、同四五年分については推計によっている。四五年分について推計によらなければならない理由は無いのであり、また被告主張の誰計自体も合理性が無く、同年分の収入金額の主張は誤まっている。

(二)  原価、一般経費に関する被告主張の平均所得率による推計は合理性を欠くものである。

布地の染色加工業は、その業態が多様であり、無地染と捺染、広巾と小巾とがあり、原告は広巾の無地染を主として行っている。右業態の異ることによりその所得や経費に差がある。例えば、小巾の無地染よりも広巾の無地染の方が設備等が大きくなってくる。

ところが、被告が右平均所得率を算出する根拠とした同業者なるものは、如何なる業態のものであるかは明らかでなく、その収入金額、原価一般経費について大きな差のあるのを無視して平均率を求めるという不合理なものであるから、これによる原価一般経費の算定は合理性が無いというべきである。

第三証拠関係

一  被告

乙第一ないし第三号証の各一、二、第四号証、第五ないし第九号証の各一、二、第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四、第一五号証の各一ないし三、第一六号証、第一七号証の一ないし四を提出。

証人安久武志、同畑健治の各証言を援用。

二  原告

証人三双惣四郎の証言を援用。

乙第一六号証、第一七号証の一の各成立を認め、第一七号証の二ないし四の成立は不知、その余の乙号各証はいずれも官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。

理由

一  請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件更正処分が違法な調査に基づいてなされたと主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、また更正決定に理由を附さなかった違法があるとも主張するが、原告がその所得税に関し青色申告をなしているものでないことは弁論の全趣旨より明らかであり、このようないわゆる白色申告に対する更正処分に理由を附記しなければならない法律上の根拠は無く、理由附記を欠くことをもって更正決定が違法であるということはできず、原告の右各主張はいずれも採用しえないところである。

三  そこで進んで被告主張の本件係争各年分の所得金額算定の当否について検討する。

1  証人安久武志、同三双惣四郎の各証言と弁論の全趣旨によれば、原告は本件各係争年分の所得を計算すべき帳簿書類等を充分備えておらず、被告の部下職員が調査に行った際にもこれらの帳簿書類等を全く提示しなかったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はなく、このような場合においては、被告としては、合理的な方法によって原告の所得金額を推計して更正処分をなすことが許されるというべきである。

2  収入金額について

原告が昭和四四年及び同四六年において別表(三)の(1)記載の各取引先と取引していた事実は争いなく、この事実に証人安久武志の証言とこの証言により成立を認めうる乙第一ないし第三号証の各一、二、同第五ないし第九号証の各一、二、同第一〇号証、同第一二号証、同第一三号証の一、二、証人畑健治の証言とこの証言により成立を認めうる乙第四号証、同第一一号証(以上の各書証につき官署作成部分については成立に争いない)によると、昭和四四年及び同四六年について、原告は別表(三)の(1)記載の各取引先との取引により同表記載のとおり各収入を得たことが認定できる。

証人安久武志の証言によると、昭和四五年分については、その取引先はほぼ判明していたものの、その若干の者について取引額が把握できなかったため、同四四年又は四六年のような方法で実額により収入額を算定することが困難であって、推計によらざるを得なかったことが認められる。

証人安久武志の証言とこの証言により成立を認めうる乙第一四、第一五号証の各一ないし三(いずれも官署作成部分については成立に争いない)によると、係争各年分の原告の事業用の染料の仕入先及びその額は別表(三)の(2)記載のとおりであったことが認められる。

右認定にかかる昭和四四年分及び四六年分の収入金額及び染料仕入金額(原材料費)から右各年分の収入金額に対する原材料費の割合(原材料費率)を求め、その平均値を昭和四五年分の原材料費に適用して同年分の収入金額を推計することは、原告の業態(証人三双惣四郎の証言によれば主として広巾の無地染加工をすることが認められる)及び前掲各証拠により原告の営業状態が係争各年とも特段の差異が認められないことからみて不合理なものとは言えないところであり、右方法により推計すれば昭和四五年分の収入金額は一四、〇九三、三四〇円と認められる。

3  原価、一般経費について

成立に争いない乙第一六号証、第一七号証の一と証人安久武志の証言とこの証言により成立を認めうる乙第一七号証の二ないし四並びに弁論の全趣旨によると、原告の事業所の所在する下京税務署管内に事業所を有する無地染加工業者のうち青色申告者(その人数は被告主張4(二)に記載のとおり)につき本件各係争年分の収入金額、原価、一般経費額を調査し、この調査結果に基づいて右各業者の各年分の所得率を計算し、これにより各年分の平均所得率を求めれば、被告が主張するように昭和四四年分につき六一・九二%、同四五年分につき六四・四八%、同四六年分につき六四・三四%であることが認められる。そして、前認定の原告の各年分所得金額につき右平均的所得率を適用して各年分の原価、一般経費額を算定すれば、別表(二)の原価・一般経費額欄記載のとおりとなることは計算上明らかである。

原告は、右のような推計は、染色加工業の業態を無視した不合理なものであると主張するが、原告の主張する如く、広巾無地染と小巾無地染の業者の収入、経費に特段の差のあることを認めるべき証拠も無く、原告も広巾無地染を主としているが小巾無地染もなしていることは証人三双惣四郎の供述から認められるところであり、また前認定の平均所得率算出の基礎とされた業者の範囲、その数からして、右率を算定してこれにより原告の場合の原価・一般経費を推計することが不合理ということはできず、原告の右主張は採用しえない。

4  雇人費、外注費について

被告が主張する右各経費の額(別表(四)参照)は、原告が本件更正処分、異議決定に対する審査請求の段階で主張した額であることは争いない事実であり、他に反証も無いのであるから、右の額を本件係争各年分の雇人費、外注費の額と認めるのが相当というべきである。

5  建物滅価償却費について

原告は、被告主張の建物滅価償却費(別表(五)参照)について争うけれども、その額について何らの主張、立証を為さないところであり、原告の業態からして被告主張の右経費の認定が不当に少額であるとも認められない。

6  支払利子割引料について

証人三双惣四郎の証言により原告が各年度につき被告主張の額の支払利子、割引料(別表(二)7)を支払ったことが認められる。

7  そうだとすると、本件各係争年分の原告の所得金額は、被告が主張するように別表(二)の各事業所得金額に達するものと認めるのが相当である。

四  よって、本件係争各年分の原告の所得につき、右認定の範囲内における別表(一)記載のとおりの本件各更正処分(ただし四四年及び四六年分については異議決定により変更されたもの)は正当であり、また前認定の原告の確定申告にかかる所得税額と右認定の更正決定にかかる所得税額に基づいて別表(一)記載のとおりの額の過少申告加算税の賦課決定処分(ただし四四年及び四六年分については異議決定により変更されたもの)も正当であるから、右各処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないというべきである。よって原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行訟法第七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 野崎薫子 裁判官 岡原剛)

別表(一)

別表(二)

別表(三)の(1)

別表(三)の(1)

別表(三)の(2)

別表(四)

別表(五)

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